対談   11/22(日)15:00~16:30

『布について語る』

新道弘之/藍染めxひろいのぶこ/
「織物の原風景-樹皮と草皮の布と機」(共著)著者



『布談義』 新道弘之
もし、何百年も何千年も昔に生まれた人達が、
21世紀のハイテク繊維工場を覗くことができたなら、
どんなに仰天することでしょう。

捨てられたペットボトルからリサイクルされた
ポリエステルによって、極細の均一な糸が生まれ、
短時間で大量に布が織られる有様は、
気が遠くなるような手仕事をしてきた人達にとっては、
信じられない魔法としか思えないでしょう。

しかし、こんなに技術が発達した現代社会においても、
自分達が織ってきたのと同じように、糸にするまでには
厄介な天然の素材から績まれた糸で、
いまだに手暇をかけた手織りの布を愛する
現代人が存在することを知った時、そのことは、
その人達にとっては別の意味で信じられない驚きかも知れません。

タイムスリップした古代人を布談義に招いてお話を聞いてみたいですね。

【プロフィール】
1941  東京生まれ京都育ち、京都市立美術大学
      (現京都市立芸術大学)の学生の頃から
      藍に魅せられ、藍染めによる
      制作・研究・蒐集を始める。

1980  藍の醗酵に欠かせない木灰や
      良い水を求めて美山の北村に移住。

2005  長年にわたって蒐集してきた
      藍染コレクションを展示する
      「ちいさな藍美術館」を美山に設立、
      藍の工房も公開している。





『縁側の日差しの中で』 ひろいのぶこ

幼い頃、縁側の日差しの中で、
祖母が掛け布団に糊のきいた綿布を縫いつけるのを、
針に糸を通しては祖母に手渡ししたことが、
私にとって最初の糸との出会いです。

そんな時、
「糸というのは切るものではなくて、つなぐものよ」
と私に話しかけてくれました。
解いた糸も捨てないで針箱に入れ、
繰り返し使っていたものです。

衣服はもちろんのこと寝具にも、
木綿の布にはでんぷん糊をつけて
かたくしていたのは、
私たちの日常の布が
かつて麻類であったことに由来する
「皮膚の記憶」が、
そうさせていたのかと思います。

その後二十年にわたって
「木綿以前」の織物を調査するようになり、
そこで初めて天然素材の糸というのは、
草皮や樹皮から気が遠くなるほどの手間をかけて
撚ったりつないだりするものであることを知ったのです。

長崎の街中で育った祖母は
麻の糸績(う)みの経験はなかったと思いますが、
それでも糸の成り立ちを理解し、
ひとすじの糸も粗末にせずに暮らしていたことは、
私の今に細く長くつながっているような気がしています。


【プロフィール】
1951年神戸生まれ。色彩と布に恵まれて育った。

1999年『織物の原風景―樹皮と草皮の布と機―』
(共著)を刊行。
ほぼ20年かけて日本と東アジアの麻など
木綿以前の織物における、
繊維の方向性・整経・機織りの
関係構造を調査しまとめる。

学生時代から沖縄、インドをはじめ、
染めや織りの現場に出会うために各地を旅行。

現在、京都市立芸術大学美術学部工芸科
染織研究室に在籍し、
個展を中心に創作発表を続けている。